会長 早野 龍五 就任のごあいさつ

hayano

鈴木鎮一先生が才能教育研究会を始められて70年の節目の年に、第五代会長に就任することになりました、早野龍五です。音楽の専門家でも、演奏家でもありません。現在は東京大学で物理学の教授をしております。

四歳から高校に入学する頃まで、スズキ・メソードでヴァイオリンを習っていました。才能教育研究会の始まりの場所である松本音楽院に通い、創始者である鈴木先生からも直接レッスンを受け、十二歳の時には第一回アメリカ演奏旅行(テン・チルドレン)のメンバーに選ばれました。

その後、私は音楽ではなく、科学の道を進むことになるのですが、ヴァイオリンを通して身につけたことが、その後の私の人生に大きな影響を与えました。

一曲をとおして楽器を弾くためには、どんなに短い曲であろうと、集中力が必要です。また、そのためのスキルを身につけるためには、基礎の反復練習が不可欠です。 音を聞き、体を動かし、曲を覚え、音を磨く・・・、その過程において培われた、忍耐力や集中力が、物理の研究をする上でも私の推進力となったと感じています。

高校に入ってヴァイオリンを辞めてから、半世紀近くがたちました。先日の70周年記念コンサートで久しぶりに楽器を手に取り、他の参加者のみなさんと一緒にヴァイオリンを弾く機会に恵まれました。自分にとっても驚きでしたが、幼少期に習った曲なのに、約50年のブランクを経て、今でも暗譜で弾くことができたのです! 「一度楽器を習っておくと、いつでも、また楽しむことができる」ということを実感した、うれしい時間でした。

幼児が母語を覚えるように音楽に親しむ。そして音楽を通して全人教育を、という鈴木先生の理念への共感は、この70年間に全世界に広がり、現在では約40万人のお子さんがSuzuki Method(スズキ・メソード)で学んでおられます。70年で、ここまで世界に広がったスズキ・メソード。その貴重な歴史を守りつつ、私たちが音楽教育を通して、子どもたちの未来に対してどんな貢献ができるのか、全国のヴァイオリン・ピアノ・チェロ・フルートの先生方とともに、研究と努力を続けていきたいと思います。

 

早野龍五(はやの りゅうご)プロフィール

東京大学教授。物理学者。64 歳。

 

世界最大の加速器を擁するスイスのCERN研究所(欧州合同原子核研究機関)を拠点に、反物質の研究を行う。 また、2011年3月以降、福島第一原子力発電所事故に関して、Twitterから現状分析と情報発信を行う。 新潮文庫「知ろうとすること。」を糸井重里氏と共著し、 科学的に考える力の大切さを提唱。

 

1952 年生まれ 岐阜県大垣市出身、父の仕事の関係で松本に在住
1956 年 松本音楽院にてヴァイオリンを習いはじめ、その後鈴木鎮一先生に師事
1964 年 才能教育研究会第一回アメリカ演奏旅行(テン・チルドレン)に参加
1970 年 長野県立松本深志高等学校卒業
1974 年 東京大学理学部物理学科卒業
1979 年 東京大学大学院理学系研究科修了、理学博士
1997 年より 東京大学大学院理学系研究科教授
2010 年より スズキ・メソード OB・OG会理事
2014 年より (公社)才能教育研究会理事

反物質の研究により2008年仁科記念賞、第 62 回中日文化賞など受賞。